鍼灸や東洋医学の古典って、「実」だの「虚」だの…「陰」だの「陽」だのと…普段使わない言葉が羅列されてるし…、漢字ばかりだし…(^^;) なんとなく取っ付きにくく、わかりづらいから、初学者や今まで古典を避けてきた鍼灸師は敬遠しがちではあるけど、実のところ…臨床をやってると、ちょっと…魅力を感じる分野でもあると思うんですよねぇ~。
なので今回は「東洋医学や鍼灸の古典を学ぶ必要性」についてブログに書いてみようと思ったんですよ…。
ある時…ふと…
「なんで?神経伝達物質や内分泌に効果があるツボって、とても有名なツボばかりなんだろう?」…って思ったんです。
まずは…神経伝達物質って何?…内分泌って何?…って話しですが…
御存知の方も多いと思いますが…、神経伝達物質って、身体や脳の中で、神経と神経が情報をやり取りする時に、神経から放出される物質なんですけど、これって…高校の生物学で教わるのかな?…今は中学生で教わってたりして…(^^;)
代表的なものとしては、ドーパミンとか…、アドレナリンとか…、ノルアドレナリンとか…、セロトニンとか…、ヒスタミンとかね…。
生物学が苦手な人でも、近頃、健康を題材にするTV番組…『ホンマでっか!?TV』とか『カズレーザーと学ぶ』とか…NHKだと、タモリさんと山中伸弥さんがやっている『人体』っていう番組などを見てると、よく出てくるワードなので「なんか…聞いた事あるな…」って感じだと思います。
これらを超簡単に解説すると…
ドーパミンは前向きな気持になったり、集中を高めるのに必要だし…
アドレナリンやノルアドレナリンは心拍数を上げたり、血圧を上げたりして身体のパフォーマンスを高めるのに必要な物質だし…
セロトニンはリラックスというか、精神的に安定する働きがあったりとか…
ヒスタミンはアレルギー反応を起こす厄介者的なイメージだけど、身体の異常を教えてくれる働きでもあったりするしね…
まぁ~…精神的な安定や、身体のパフォーマンスを上げたり、痛みを抑制する働きがあったりする重要な物質が、神経伝達物質だと思ってもらえばいいと思います。
あと…、内分泌っていうのは…
体の機能を調節する腺や器官からホルモンが出て、そのホルモンが血液で運ばれて、特定の細胞に作用する事で、血圧や代謝や血糖値や…、炎症や生殖機能の調整を行ったりす、これまた…重要な働きを担っています。
私事ですが……(^^;)
高校で生物学を習ってから随分、時間が過ぎてるし…、理系の学部も出てるんですが…もう卒業して38年も経ってますしね…(^^;) その後…22~25年前に3年間、鍼灸の専門学校で、現代医学の基礎として生理学を学び、再度、復習はしましたが、もう…22年以上過ぎてますしねぇ~…(弱気…(^^;)…)
たしか…
神経伝達物質は伝わるのが早いけど、作用する持続時間は短いのが特徴で…、内分泌系は伝わるのは神経伝達物質に比べると遅いけど、作用する時間は長い。…という違いがあったと思います。
でね…
鍼灸師になって22年経つんですけど…、この22年間の間に、色々と鍼灸の本や、学会発表の論文を読んでると、昔の本には記載されてないんですが、最近は…「○○というツボは神経伝達物質や内分泌系のバランスをとる…」とか、「このツボはドーパミンの分泌を促す…」だとか、「このツボは抗炎症作用に働く…」と書いてあったりするんですよね!
最初の頃は「ほほぉ~~~!」「そうなのかぁ~~~!」「凄ぇ~なぁ~!」って思ってたんですが、ある時…ふと疑問に感じた事があって…
「なんで?スタンダードで超有名なツボばかりなんだろう?」って…思ったんです。
合谷とか…、足三里とか…、百会とか…、神門とか…、鍼灸師としては、基本の「き」的なツボばかりなのが腑に落ちないな…って思ったんです。
じゃぁ~…なんで?スタンダードな…、とても有名なツボばかりが神経伝達物質やホルモンの分泌に影響を及ぼすのか?…他のツボは影響を及ぼさないのか?…どうなの?…という疑問に関して考えてみました。
【考察…其の一】
確か…アドレナリンやノルアドレナリン…、ドーパミンやセロトニンが発見されたのが1900年代の初頭から中期にかけてだから、当時…、まずは医学会で、この情報が広まり、業界での一般常識として扱われるようになるまでに10~20年の時間が必要だったと思うんです。…今みたいにネット社会じゃありませんしね!
でね…
ドーパミンやセロトニンが発見されたのが1950年前後の頃だから、現代医学の業界で情報が行き渡った後、鍼灸業界でも…「鍼灸では、どうなんだろうか?」と研究が始まり、鍼灸が神経伝達物質やホルモンなどに影響を与えられるって事が、学会で発表されたり、書籍として発売されたりするのは、…おそらく、1990年代に入ってからじゃないのかな?…って思うんですよねぇ~。
こういう研究って専門学校では絶対無理だし…、大学とか研究施設じゃないと無理だと思うんですよぉ~。
たしか…明治鍼灸大学…今は名前が変わってましたよね!?何ていう名前でしたっけ?…あの学校が、日本で初めての4年制の鍼灸大学だったと思うんですよね…。あそこが出来たのが、確か1980年代前半の頃だったと思うから、大学の研究が軌道に乗り始めたのは90年に入ってからだと思うんですよぉ~。
日本以外の外国で、鍼灸による神経伝達物質やホルモンの関係の研究が行われたとすれば、それは、多分、アメリカのニクソン大統領が中国を訪問した時…、1971年に中国の鍼麻酔による手術が世界的に報道されているので、海外での鍼灸による神経伝達物質やホルモンの研究は1971年以降なのかもしれないと推測できますね!
昭和初期の鍼灸で、代表的な有名人と言えば、柳谷素霊さんだと思うんですが…、柳谷素霊さんが生きている時に神経伝達物質が発見されてはいるものの、セロトニンやドーパミンが発見されて…数年後に亡くなられてますから、柳谷素霊さん世代の鍼灸師の人達は、鍼灸が身体の何かに影響を及ぼすんだろう…と、想像していたのかも知れませんが、まだ…あの当時は想像の範囲内だったんでしょうねぇ~。
それと…、原 志免太郎さんって福岡の人で、お灸の研究で有名なお医者さんがいらっしゃったんですが、原先生が、お灸の研究をされていたのが1900年代初頭というか、前半なんですよねぇ~。以前、古本屋で昭和4年くらいの本…『灸法の醫学的研究』と言う本を見つけて…買って持っているんですけど「灸による白血球の影響」とか「血清に及ぼす影響」とか、お灸と血液に関しての事は書かれてますが、神経伝達物質やホルモンに関しては書かれてませんでしたねぇ~。
【考察…其の弐】
鍼灸による神経伝達物質やホルモンなどの分泌量を調べるには、それなりの施設じゃないと調べられないという事を考慮すると、普通の臨床をしている鍼灸師が、鍼灸と神経伝達物質&内分泌に関して調べることは不可能ですよねぇ~。
なので、どこかの大学の教授?研究者?…とか、研究施設の人しか鍼灸による神経伝達物質やホルモンの分泌量を計測出来ないので、想像するに…、そんなに鍼灸に関して詳しくない人が研究している可能性もあるのではないか?…って思うんです。
もしくは…臨床経験が無く、研究畑一途で鍼灸の資格を持つ研究者。または、東洋医学や鍼灸に興味を持っている医師の資格を持つ研究者が、動物実験で鍼灸による神経伝達物質やホルモンの分泌量を計測しているのではないか?
…だから、選択されているツボは、超有名な…スタンダードなツボが研究対象になっているのでは?…って思えちゃうんですよねぇ~。
【考察…其の三】
先ほど「柳谷素霊さん世代の鍼灸師の人達は、鍼灸が身体の何かに影響を及ぼすんだろう…と、想像していたのかも知れないけど、鍼灸が神経伝達物質やホルモンへの影響を及ぼすという事は、まだ分からず、…想像の範囲内だった…」と書きましたが、柳谷素霊さん以前の先生方…例えば、江戸時代の医者は治療に、薬も使えば、鍼や灸をも使って治療していたわけですから、歴史的に有名な医者で、僕が思いつく名前だと…、吉益東洞さんだったり、杉山和一さんだったり、曲直瀬道三さんだったりね!…中国の歴史的な有名なお医者さんでは、華佗さんだったり、張仲景さんだったり…そんな先生方も、神経伝達物質やホルモンの認識はなくても、神経伝達物質やホルモンが関係しているであろう症状を治療してきていると思うんですよねぇ~。
なので…
超有名な…スタンダードなツボだけではなくて、他にも色々なツボも影響を及ぼすんだと思うんです。1つのツボ…単体だけではなく、ツボの組み合わせとかね…。色々な組み合わせがあると思うので、色々と試して、研究&測定してみるべきなんでしょうが、先ほど書いたように、神経伝達物質やホルモンなどの分泌量を調べるには、それなりの施設じゃないと調べられないから、なかなか研究も進まないんでしょう。
でね…【結語】というほどの事ではないのですが…
先日の来日公演で、日本武道館の公演回数がトータルで110回を記録した、エリック・クラプトンが、新聞のインタビューで、こんな話しをしていたんですよ…。
「あなたの音楽を進化させる動力になったものは何なのでしょうか?」という質問に対して…
「過去だよ。私はいつも過去の音楽に立ち返る。特にブルースをよく聴く。でも世の中には、ブルースの事を知らない人がまだまだたくさんいる。だから、私は新しいものを見つけるために、何度でも過去に戻るんだ」
…っていうクラプトンの記事を読んで、「新しいものを見つけるために、何度でも過去に戻って、再解釈して…忘れられていたモノを現代に蘇らせる…」っていう事なんだなぁ~。鍼灸や東洋医学で古典を勉強する必要性と、まったく同じだ!…って思ったんですよ!
昔の人も現代人も、臓器の数が増えたり減ったりしている訳ではないし、生活環境は少し違うけど、身体は同じなわけだから、体調不良や病気の症状は、今も昔も変わらないはずなんですよねぇ~。先人達は、神経伝達物質やホルモンを認識していなくても、そういう患者さんを治療していたわけで…
その先人達が、どう治療していたか?を知るには、今現在、鍼灸と神経伝達物質やホルモンの研究が迅速に進まないのならば、古典から治療方法を探し出すしかないわけですよね!
クラプトンが言う…「新しいものを見つけるために、何度でも過去に戻るんだ…」…コレって重要だと思うし、古典を学ぶ理由だと思うんですよぉ~。