本の帯には「アンドルー・ワイル博士推薦 腰痛、肩こり、関節痛患者が最後に読む本。 投薬、手術、物理療法によらない画期的治療プログラム!」…と書いてあります。
アンドルー・ワイル博士って…誰???(^^;)…ネットで調べてみると…
アメリカ合衆国の健康医学研究者、医学博士。伝統中国医学など代替医療の伝統も取り入れ、人間に本来備わっている自然治癒力を引き出すヘルスケア・システムである統合医療を提唱している人…
…とあり、現在、81歳なんだそうな。
この本はジョン・サーノという博士の訳本なんですが、この本によると緊張性頭痛、片頭痛、胸やけ、食道裂孔ヘルニア、胃潰瘍、大腸炎、痙攣性大腸、過敏性大腸症候群、花粉症、喘息、湿疹など…様々な症状は、TMS(緊張性筋炎症候群)と呼ばれる現象で起こり、TMSは心の緊張が原因で起こると定義しているようなんですね!
因みに…○○症候群と、「…症候群」が付く病名は原因がハッキリとは分かっていないんだけれど、お医者さんが診断する時に、カルテに病名を記載しなければいけないので、…○○症候群と、仮の病名というか、病名に準じて使う医学用語として、色々な症状で使われている言葉なんですよねぇ~。
この本の、サーノ博士によれば、TMSを治すには、患者さんが自分の抱えている問題を自覚する事が必要だとしていて、心の現象が身体の症状として現れているのがTMS…なんだそうな。
また…こんな事も書かれていました。
現代医学は、身体はきわめて精巧にできた機械とみなされ、病気は感染や外傷、遺伝的欠損、老化、癌などにより生じた機械の故障とみなされる。
心に関しては数値測定したりできないので、現代医学は無視を決め込み、健康や病気には、どうも、あまり関係がないようだと信じる事になってしまった。
…との事。
あぁ~なるほどなぁ~…そう言えば、いつだったか、ある人から聞いた話しでは、医学の世界で科学的に解明できない事は「遺伝的な事…」というパワーワードで納得する傾向にある。…って聞いた事があるけど、これと同じように、宗教的には、理解不能な物事に対して、原因は「カルマ(所謂…業です)」というパワーワードで全てを治めるのと似てるよなぁ~…(^^;)
この本によると、1982年に背腰痛の患者さん177人を対象に,どの世代に背腰痛が多いかを追跡調査をしたところ…
(77%:30歳~50歳)(9%:20歳代)(2%:10歳代)(7%:60歳代)(4%:70歳代)…という結果になったらしいんです。
博士曰く…、
もし脊椎の退行変化(変形性脊椎症や椎間板変性が背腰痛の主因なら、ヘルニアや椎間関節症候群や脊柱管狭窄など…)は60歳~70歳代の人が多いはず…。
…この統計の数値から、背腰痛は器質的・構造的なものが原因ではなく「責任を負う世代(30歳~50歳)」に多く発症するという事は、心が原因の場合が多いのではないか…、と論じてます。いわゆる…不安や怒り…、個々の考え…,性格…、生活環境…、受け入れがたい感情…が原因だという事なんですねぇ~。
なるほどなぁ~…統計の数値だけで考えると、然もありなん…って感じですねぇ~。
本の後半で『監訳者のあとがき』で…
現代医学による診断が役にたたなくなると、人は非主流医学の代替医療に目を向けたがる。カイロプラクティック、オステオパシーなどがそうである。こうした方法においては骨盤に歪みがある証拠として下肢長差を問題にする事が多い。
…人間には利き腕もあれば、利き脚もある。人体は本来、左右対称には出来ていない。
…と書かれてあったんです。
たしかに!…ごもっとも…。
なんでも…、人が直立姿勢で立つ場合の重心点は、歩き始めは正中よりやや右側にあり、5歳頃になると、一度、正中に移動して、その後、徐々に左側に移っていくらしい。
これは右側にある肝臓が重いためなんですって!
歩き始めの時期は肝臓の重さを補正できないけど、徐々に重心を左に移すことで補正して、大部分の人は自然に左足が軸足になるんだそうな…。
本の後半に書かれていたんですが…
アメリカやカナダで発表されたガイドラインでも指摘されているが、慢性の痛みを身体的アプローチだけで解決するのは不可能である。治療に対する受動的な姿勢は、かえって慢性化を助長するという見方まである。
…とありました。
たしかになぁ~。…これは頷けるなぁ~。
…とはいえ、私は何もTMS理論が唯一絶対の治療法だなどと言うつもりはない。一つの理論に固執するあまり、その他の可能性に対して扉を閉ざすのは人間の性といえ愚かな事である。
…と、監訳者の人が、あとがきに書いてありました。
本の前半では、なぜTMSが原因で病気になるのか?という感じで解説されていたんだけども、本編の真ん中辺りから「こんな症状も…あんな症状も心が原因です!…今の医学は間違っている!!!」…と連呼している感じになり、読んでいて、「おいおい!ちょっと言い過ぎじゃない!?」…って思いながら読んでいたんですが、想像するに、監訳者の人も「誤解をまねきそうだから、ちょっと修正いれておこうかな…」と、「…とはいえ、私は何もTMS理論が唯一絶対の治療法だなどと言うつもりはない。」という一文を入れたのかな?…(^^;)…と思ったと同時に、この監訳者の人…何て名前なんだろう?と思い『著者、訳者、紹介』を見てみたら、長谷川淳史さんという人で『腰痛は〈怒り〉である』という本の著者だった。
そう言えば…14~15年前に腰痛治療で、ウチの治療院に通われていた患者さんが「先生!この本…知ってる?私…読んでみたんだけど、もう読まないからあげる!」と言って、本をくれたんですよねぇ~。そう言えば、『腰痛は〈怒り〉である』というあの本…どこに行ったんだっけ?…と本棚を見回したら、赤い表紙の本が僕の本棚で鎮座しておりました。…あぁ~…あの本を書いた人なのね!
この長谷川さん…曰く、
TMS理論は性格の問題点を指摘して改善しようというものではない。発症について自分に責任を感じる必要はまったくない。ただ抑圧されている不快な感情に気づく事が背腰痛の特効薬になると主張しているだけである。
…とTMS理論を説明していた。
確かに…、患者さんは背中や腰が痛くて通院しているのに、性格の問題点などを指摘されたら苛つく人も多いだろうし、治療者と患者の信頼関係が低下してしまう可能性もあるし「お前なんかに、そんな事言われたくないわ!!」…となる事は目に見えてるしねぇ~。
いかに患者さんに、自分自身の心の不安定さを気づかせるか…というのがポイントなんでしょう。
鍼灸というか東洋医学では「心身一如」という言葉を重視するんですよねぇ!
この言葉は東洋医学の言葉なのか?仏教の禅宗の言葉なのかは知らないんですが、「心と身体、肉体と精神は一つであり、切り離すことはできない…」という意味なんですよ…。
この「心身一如」という言葉を僕ら鍼灸師は、鍼灸の勉強をする時に教わるので、このTMS理論で言う「痛みの原因は心」という理屈は無理なく受け入れる事ができるんです。
ただね…
この本を読み進めていると、背腰痛などの痛みの原因は心以外に有り得ないと言わんばかりの内容になっているので「おやぁぁぁぁ~~~????」と思ったりもしました。
文部科学省のHPによると、科学は自然の事物・事象について観察・実験等によって原理や法則を見いだす。…とか、科学は完璧な間違いを見つけるのが得意…と思われていたり、言われていたりしてますが、過去の歴史を振り返ると、科学を万能だと思うと、しっぺ返しのように、結構、危ない事になる場合も少なくないので、科学は常に仮説と思って対応した方が良いって…、誰かが言ってたなぁ~。
臨床を長年やってると、TMS理論が言う「心が原因」かも…と思う患者さんを治療する事は、鍼灸師なら誰でもあると思います。
でも…心だけが原因だと決めつけてしまうと、視野を狭くしてしまい、治療が上手くいかなくなると思うんですよねぇ~。
鍼灸は基本的な治療として、鍼や灸を使い身体のコリを取る。そうすると身体が緩めば心も緩む。
身体が緩めば器質的・構造的な不具合も改善できますし、身体が緩んで心も緩めばTMS理論がいう「心が原因」という理屈にも対応できます。
やっぱ…鍼灸って理にかなっている治療法だなぁ~って思うんですよねぇ~
この本の前半は…「ふ~ん」っていう感じで読めましたが、後半はちょっと…「…ん?」って思いながら読みました。まぁ~『あとがき』でプラマイゼロって感じかな…(^^;) 全てを鵜呑みで信じる事は出来ませんが、こういう事もあると認識する事は必要だと思いますねぇ~。